物流業界「2024年問題」解決の鍵
トラックの自動運転は実現するのか
ナレッジ

目次
コロナ禍以降、ネットショッピングの需要が高まり、物流業界では人手不足が叫ばれています。
さらに2024年からトラックドライバーの労働時間の規制強化が始まり、ドライバー不足によって荷物が運べなくなる「2024年問題」が社会課題となっています。
この「2024年問題」の解決に向けて、注目されているのがトラックの自動運転です。
自動運転と聞くと、人間が何もしなくても勝手に目的地まで送ってくれる「完全自動運転」をイメージし、実現には程遠いのではと感じてしまうかもしれません。
しかし、実際には自動運転は条件によって細かくレベル分けされており、トラック運転手の長距離運転の負担を軽減するレベルの技術に関しては、実現の可能性が見えてきています。
2024年11月、経済産業省と国土交通省はトラックが高速道路で自動運転を行う「レベル4」を2026年度以降に実用化するという目標を掲げ、実証実験が始まりました。
トラックの自動運転技術は、物流業界「2024年問題」 を解決へと導くことができるのでしょうか。
物流業界が抱える「2024年問題」とは?
近年では、外出しなくてもインターネットで注文したものがすぐに手元に届く、便利な生活が当たり前になりつつあります。
しかし、便利で快適な生活の裏にはさまざまな課題が潜んでおり、その一つが物流業界の「2024年問題」です。
「2024年問題」とは、働き方改革関連法施行によってトラックドライバーの時間外労働の上限規制が適用され、輸送能力が不足することです。
2024年4月から、トラックドライバーの時間外労働が制限され、年間960時間が上限となりました。
労働時間の減少によって1日に運ぶ荷物の量が減ることで、トラック事業者の売り上げとドライバーの収入が減少し、さらなる担い手不足を引き起こすことが懸念されています。*1,*2
政府が実施した検討では、「2024年問題」に対して何も対策をおこなわない場合、2030年には営業用トラックの輸送能力が34.1%、輸送量が9.4億トンも不足する可能性があると試算しています。(図1)*1

出所)公益社団法人 全日本トラック協会「知っていますか?物流の2024年問題」
https://jta.or.jp/logistics2024-lp/
長時間労働の背景には、荷物の速やかな配送や再配達によるドライバーの負担増大、荷積や荷下ろしのための長時間に及ぶ待機などが考えられます。*3
これらの事情は事業者側の努力だけでは、解決が難しい問題です。
「2024年問題」の解決には、荷主企業やトラック事業者、そして私たち消費者がさまざまな側面から対策を講じる必要があります。
人手不足を解消するトラックの自動運転化
物流業界の「2024年問題」の解決を目指す取り組みとして注目されているのが、自動運転システムを活用したトラックの自動運転化です。
自動運転システムとは、ドライバーがおこなう認知、判断、運転操作などの行為を、人間の代わりにシステムがおこなうものです。
GPSやカメラ、各種レーダーなどによって、周辺環境を読み取ることで、アクセルやブレーキ、ハンドリングなどの運転操作をシステムが自動制御します。(図2)*4

出所)愛知県ITS推進協議会「自動運転(自動走行)システム」
https://aichi-its.jp/knowledge/glossary/autonomous-car/
しかし、「自動運転」とひとくちにいっても、完全無人で走行可能な自動運転システムのみを指すわけではありません。
自動運転は、自動化の範囲によって以下のようにレベル分けされており、レベル1〜レベル2はドライバーが主体となっているのに対して、レベル3以上では自動運転システムが主体となった周辺監視を想定しています。(図3)*5

出所)経済産業省「自動運転で「2024年問題」解決!国内メーカーが目指す「レベル4」のトラック・バス・タクシーとは」
https://journal.meti.go.jp/p/34928/
レベル3〜4では、ODD(Operational Design Domain)と呼ばれる特定の走行条件「運行設計領域」が定義されています。これは、高速道路や専用レーンなどの道路の条件や天候、夜間制限などによって、自動運転車両のセンサやソフトウェアが安全に作動する領域のことです。
高速道路での完全自動運転は、「特定条件下における完全自動運転」のレベル4に相当します。*5, *6
自動運転の社会実装に向けて、トラックやバス、タクシーなどの商用車と自家用車はそれぞれ異なるアプローチで条件のない完全自動運転であるレベル5を目指しています。(図4)*

出所)RoAD to the L4「RoAD to the L4とは」
https://www.road-to-the-l4.go.jp/about/
走行ルートが決まっていること、専用道路を整備しやすいことなどから、走行条件を限定できる商用車から先行して自動運転の実証に取り組み、その成果を活かし、自家用車の量産開発の実現を目指す計画です。*7
2024年12月には、松山市で全国初となる自動運転レベル4での路線バスの運行が開始されました。
運行される車両はEV(電気自動車)で、合計42台のセンサやカメラが周辺の状況を検知しながら走行します。*8
自家用車に関しても、複数の自動車メーカーが自動運転技術の開発を進めており、2021年にはホンダが世界初の自動運転レベル3の指定を受けた自動車を発売しています。
発売された自動車には、高速道路渋滞時などの特定の走行条件のみでドライバーに代わって運転操作をおこなう自動運行装置「トラフィックジャムパイロット(渋滞運転機能)」が搭載されています。*9
ついに始まった!トラックの自動運転実証実験
2024年11月、新東名高速道路における自動運転トラックの要素技術検証が開始されました。
この実証は、新東名高速道路の駿河湾沼津SA~浜松SA間で、深夜時間帯に自動運転車優先レーンを設定して実施されます。
自動運転の要素技術を段階的に検証していき、まずは自動運転トラックの自動駐車、自動発進などの動作を確認します。
さらに、高速道路への合流のために速度調整が可能か、工事規制や落下物、交通事故などの情報を適切に受信し、車両変更などの制御が可能かなどについても順次検証していく計画です。(図5)*10

出所)国土交通省「新東名高速道路における自動運転トラックの要素技術検証を開始」p.1
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001841115.pdf
高速道路での自動運転を実現するには、スムーズな走行をサポートする情報提供システムや自動運転の切り替え拠点、自動運転者優先レーンなどのインフラ整備も必要となります。(図6)*10

出所)国土交通省「新東名高速道路における自動運転トラックの要素技術検証を開始」p.2
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001841115.pdf
自動運転へのインフラ支援は、2024年度から新東名高速道路、2025年以降に東北道の6車線の一部区間で実証を開始します。
実証結果や車両の開発状況、物流ニーズをふまえ、2026年度以降は物流大動脈ともいえる関東〜近畿エリアで優先して展開し、その後全国に拡大していきます。(図7)*11

出所)国土交通省「高速道路での自動運転トラックの実証について」p.5
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001754017.pdf
また、2021年には高速道路におけるトラックの後続車無人隊列走行の実証実験をおこなっています。
この実証では、先頭車のみドライバーが乗車する3台の大型トラックが、時速80kmで車間距離約9mの車群を組んで走行し、無人状態での先頭車への追尾や車間距離の維持が可能であることが確認されています。(図8)*12

出所)豊田通商株式会社「高速道路におけるトラックの後続車無人隊列走行技術を実現」
https://www.toyota-tsusho.com/press/detail/210305_004779.html
後続する無人の自動運転車は、通信で連結されており、複数のセンサによって有人の先頭車の走行軌跡を自動で追従します。
さらに、車間距離を認識する複数のセンサが搭載されており、一般車の割り込みを防ぐために車間距離を常に5m〜10m以内に制御します。
システムの一部に障害が発生した場合に備えてバックアップの予備装置を平常時から運用することで、信頼性と安全性を実現しています。*12
自動運転社会の到来はすぐそこ?
経済産業省と国土交通省による「自動運転レベル4等先進モビリティサービス研究開発・社会実装プロジェクト(RoAD to the L4)」では、高速道路におけるレベル4のトラック自動運転の社会実装に向けて、以下のような普及シナリオが想定されています。(図9)*13

出所)RoAD to the L4「高速道路における高性能トラックの実用化に向けた取組」 p.6
https://www.road-to-the-l4.go.jp/activity/theme03/pdf/20240228_theme03.pdf
まずは2026年を目処に、車内有人でのレベル4自動運転の早期実現を達成し、実走行によって明らかとなる技術・事業・社会受容性などの具体的な課題をもとにさらなる検討が進められます。
2026年以降の実証では、関東〜関西の区間にある高速直結の発着可能なSA/PA間を、外部支援を受けながら自動運転で走行します。
自動運転機能によって、状況に応じた車線変更や故障車や落下物の回避、路肩への緊急退避などをおこないます。(図10)*13

出所)RoAD to the L4「高速道路における高性能トラックの実用化に向けた取組」」 p.11
https://www.road-to-the-l4.go.jp/activity/theme03/pdf/20240228_theme03.pdf
このように、トラック自動運転の実現に向けた実証は着実に進められており、2030年頃には本格的な普及が始まる見込みです。
公道での実証実験もスタートしており、社会実装に向けたカウントダウンが始まっていると言えるでしょう。
数年後には物流を取り巻く環境や交通インフラのあり方が、大きく変化しているかもしれません。
参考文献
*1
出所)公益社団法人 全日本トラック協会「知っていますか?物流の2024年問題」
https://jta.or.jp/logistics2024-lp/
*2
出所)国土交通省「物流の「2024年問題」とは」
https://wwwtb.mlit.go.jp/tohoku/00001_00251.html
*3
出所)厚生労働省 「国民の皆様へ」
https://hatarakikatasusume.mhlw.go.jp/about.html
*4
出所)愛知県ITS推進協議会「自動運転(自動走行)システム」
https://aichi-its.jp/knowledge/glossary/autonomous-car/
*5
出所)経済産業省「自動運転で「2024年問題」解決!国内メーカーが目指す「レベル4」のトラック・バス・タクシーとは」
https://journal.meti.go.jp/p/34928/
*6
出所)NRI「自動運転技術の動向と発展のカギ」
https://www.nri.com/jp/knowledge/blog/lst/2024/scs/scs_blog/0719_1
*7
出所)RoAD to the L4「RoAD to the L4とは」
https://www.road-to-the-l4.go.jp/about/
*8
出所)NHK「全国初 自動運転「レベル4」の路線バス 松山で運行開始」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241225/k10014678731000.html
*9
出所)HONDA「自動運転レベル3「レジェンド」発売。Hondaが自動運転技術で目指す「事故ゼロ社会」とその先にある「自由な移動の喜び」とは」
https://global.honda/jp/stories/009.html
*10
出所)国土交通省「新東名高速道路における自動運転トラックの要素技術検証を開始」p.1, p.2
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001841115.pdf
*11
出所)国土交通省「高速道路での自動運転トラックの実証について」p.5
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001754017.pdf
*12
出所)豊田通商株式会社「高速道路におけるトラックの後続車無人隊列走行技術を実現」
https://www.toyota-tsusho.com/press/detail/210305_004779.html
*13
出所)RoAD to the L4「高速道路における高性能トラックの実用化に向けた取組」」 p.6, p.11
https://www.road-to-the-l4.go.jp/activity/theme03/pdf/20240228_theme03.pdf

フリーライター
石上 文 Aya Ishigami
広島大学大学院工学研究科複雑システム工学専攻修士号取得。二児の母。電機メーカーでのエネルギーシステム開発を経て、現在はエネルギーや環境問題、育児などをテーマにライターとして活動中。